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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)816号 判決

控訴人(原告) 山中長八

被控訴人(被告) 枚方市牧野地区農業委員会・国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人枚方市牧野地区農業委員会との間に於て、同委員会が原判決末尾添付の物件表記載の土地について、定めた買収計画並に右計画に基く政府の買収を取消す。被控訴人両名との間に於て、右買収、並に右買収計画、これに関する公告、異議却下決定、裁決、承認、買収令書発行が夫々無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を、被控訴人等控訴代理人は、「主文と同趣旨」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、書証の認否は、当審に於て、控訴人訴訟代理人が「控訴人は旧くからの農業者であり、大路五郎及び小浜米蔵が本件土地を耕作していたのは一時的の使用貸借契約に基くもので本件土地は所謂小作地ではなかつたのであるから、控訴人がこれを同人等より返還を受けるには昭和二十五年五月十日当時は大阪府知事の許可を要しなかつたので、控訴人は当時本件土地を同人等より適法に返還を受け、同人等は本件各土地に対する耕作関係をはなれたのである。従つて右時期は本件土地の買収計画に対する異議申立期間内であつたから、被控訴人枚方市牧野地区農業委員会は右土地に対する買収計画を取り止め爾後の買収手続を中止すべきであつたのに、これをなさずしてなされた本件買収並にその余の買収手続上の各処分行為はすべて無効である。」と述べ(証拠省略)た他、原判決の事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一、被控訴人枚方市牧野地区農業委員会(当時は農地委員会、以下被控訴委員会と言う、)が昭和二十五年四月二十五日控訴人所有の原判決末尾添付の物件表記載の土地(以下本件土地と言う)について、自作農創設特別措置法(自作法と略称する)に基き同法第三条第一項第一号の不在地主の所有する小作地たる農地として買収計画を定め、その旨公告すると共に、買収計画書を従覧に供したこと、控訴人は右買収計画に対し同年五月十日被控訴委員会に異議の申立をしたが、同日付で右異議を却下する旨の決定書の送付を受け、さらに同年六月二十二日大阪府農地委員会に訴願したが、同委員会は同月二十九日訴願を棄却する裁決をし、右裁決書は同年七月二十五日控訴人に送達されたこと、大阪府農地委員会は右買収計画を承認し、その後大阪府知事は右買収計画に基いて、控訴人に対し本件土地の買収令書を交付したことは当事者間に争がない。

二、そこで先ず(1)控訴人の被控訴委員会との関係に於て「政府の買収」の取消を求める請求について考えるのに、控訴人の右「政府の買収」の取消と言うのは、自作法により市町村農地委員会の立てた買収計画に基き都道府県知事が買収令書の交付又はこれに代る公告によつて行う買収処分の取消を求める趣旨と解するところ、右買収処分の取消を求める訴は右処分をした都道府県知事を相手方とすべきであるから、被控訴委員会を相手方としてなした控訴人の右請求は不適法として却下すべきである。

(2) 控訴人は被控訴人両名との関係に於て「政府の買収」竝に「買収令書の発行」の各無効確認を求めるが、控訴人の言う「政府の買収」とは前記(1)に説明した趣旨と解され、且「買収令書の発行」の無効確認を求める趣旨は、自作法による農地の買収は都道府県知事の買収令書の交付又はこれに代る公告によつて効力を生ずるものであるところから考え、ひつきよう右の方法によつて知事の行う買収処分の無効確認を求める趣旨と解されるから、控訴人の右二つの請求は結局買収処分の無効なることの確認を求めると言う同一のことを請求することに帰する。従つて控訴人は前記趣旨の「政府の買収」の無効確認を求める以上、これを以つてその目的を達するのであるから重ねて「買収令書の発行」の無効確認を求めることはその必要がなく訴の利益がないから却下すべきである。

更に買収処分の無効確認を求める訴の相手方は、法律関係の主体である国か右買収処分庁である都道府県知事を相手方とすべきであるから、被控訴委員会に対して前記趣旨の「政府の買収」の無効確認を求める控訴人の請求も不適法であつて、却下すべきである。

(3) 控訴人は被控訴人両名との関係に於て「買収計画の公告」竝びに「承認」の各無効確認を求めるが、買収計画の公告は市町村農地委員会が決定した買収計画を外部に表示する行為に過ぎないのであつて、独立の行政処分と言うことができないから、これのみを訴訟の目的とすることは許されない。又買収計画の承認は上級行政庁である都道府県農地委員会が下級行政庁である市町村農地委員会に対してなす意思表示であつて、行政庁相互の対内的行為に過ぎず外部に対してなす行為ではないのであつて、これによつて直接国民の権利義務に変動を来す行為ではないのであるから、控訴人よりするその無効確認を求めることはできないものである。それ故控訴人の右請求はいずれも不適法として却下すべきである。

(4) 控訴人は被控訴人国との関係に於ても買収計画に対する異議却下決定の無効確認を求め、被控訴人両名との関係に於て、右却下決定に対する訴願裁決の無効確認を求めているが、右却下決定をしたのは被控訴委員会であり、訴願裁決をしたのは大阪府農地委員会であつて、右決定竝に裁決は直接権利関係に変動を来す処分ではなく従つて右各処分による法律関係の帰属する人格者なるものはないのであるから、行政事件訴訟特例法第三条を類推して処分庁を相手方とすべきであるから、控訴人の右請求はいずれも不適法として却下すべきである。

(5) 控訴人は被控訴人両名に対し買収計画の無効確認を求めているが、控訴人は同時に被控訴委員会に対する関係に於て右計画の取消を求めているのであつて、この請求の判断に於て買収計画の適否はすべて判断され、右買収計画に取消すべき瑕疵があると判断されると買収計画は取消され当初に遡つて買収計画はなかつたこととなり、若し瑕疵がないか、あつても取消事由にも当らないと判断される場合には、より重大な瑕疵を要する無効事由もないことになるのであり、且その判決の効力は国をも拘束するものであるから、右買収計画の取消を求める請求が不適法として却下されない本件に於ては、控訴人としては被控訴委員会に対する右買収計画取消の請求と併せて被控訴人両名に対しその無効確認を求めることはその必要がない。それ故控訴人の被控訴人両名に対する右無効確認を求める請求は、先ずこの点に於て不適法として却下すべきである。

以上の通りであるから、控訴人の本訴請求中適法として進んでその本案について判断すべきものは、被控訴委員会に対する買収計画の取消を求める請求、異議却下決定の無効確認を求める請求、被控訴人国に対する買収処分の無効確認を求める趣旨の「政府の買収」の無効確認を求める請求となる。そこで次に右の各請求の当否について判断する。

三、控訴人は(一)買収計画の実体上の違法と、(二)買収手続上の瑕疵を主張するから、順次判断しよう、

(一)  買収計画の実体上の違法の主張について。

(1)  本件土地は農地でなく宅地であるとの点について、

原審での証人大路五郎の証言、同控訴人本人尋問の結果竝に原審及び当審での検証の結果を総合すると、本件三筆の土地はもともと田畑として耕作の用に供せられていたのを控訴人が大正の末から昭和の初めにかけて将来何時かは同地上に家屋を建築したい考えで買受け、五百三番地五百四番地を大路五郎に、五百二番地を小浜米蔵に控訴人が家屋を建築するときは返還を受ける約束で賃貸し、以来農業者である右賃借人等が耕作の用に供して来たものであつて、本件買収計画を定めた当時右土地上には夫々農作物が栽培されていたこと、控訴人が買受後特に宅地化を図つたことを認むべき事跡がないこと、土地そのものが宅地としての形態を備えていないことが認められる。してみると右三筆の土地は買収計画樹立当時は土地そのものは農作物の栽培の用に供されていて宅地の形態を備えていたものでないのであるから、たとえ控訴人が将来宅地として利用する意図で所有していたとしても、自作法上の農地と言わねばならないから控訴人の主張は理由がない。

(2)  小作地でないとの点について、

本件土地の中五百三番地五百四番地は大路五郎が、五百二番地は小浜米蔵が夫々賃借し耕作していたことは前認定の通りであつて、原審での証人大路五郎の証言、同控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は右土地に対する所謂年貢を本件土地が買収される頃迄右大路、小浜から受取つていたことが認められるから、本件土地は自作法に言う小作地である。

控訴人は右大路五郎、小浜米蔵の本件土地の耕作は休閑地利用としての一時的使用貸借に基くものであり、すでに昭和二十五年五月十日限り右使用貸借契約は合意解除され、控訴人に本件土地は返還されたものであり右合意解除には知事の許可を要しないと主張するが、本件土地に対する大路、小浜と控訴人との法律関係が単なる休閑地利用の一時的使用貸借でなく、賃貸借であることは前記認定の通りであつて、農地の賃貸借契約を合意解除するには昭和二十五年五月十日当時は知事の許可を要するのであつて、控訴人が右許可を受けたことの主張竝に立証のない本件では、右合意解除の有無を判断する迄もなく、合意解除は効力を生ずるに由がないのみならず、自作法による農地買収計画の適否は右計画樹立時を基準として判定すべきであつて、控訴人の主張自体からみても右計画樹立当時には未だ合意解除は成立していなかつたのであるから、控訴人の右主張は理由がない。

(3)  自作法第三条第一項第一号のいわゆる準地区の指定をすべきであるとの点について、

元来準地区の指定は、市町村(地区)農地委員会の管轄区域が行政区画に従つて、定められる結果、その区域が必ずしも農業経営上から見た経済地域と一致せず、ためにその区域を基準とする在村、不在村の区別が、自創法第三条の認めた地主の農地保有上の権利の有無の判定に、看過し難い不合理、不公平な結果を生ずるような地域的事情の存する場合に、この不合理、不公平を是正緩和するために、一の農業委員会の区城の一部を、これと農業経済的に近密な関係にある他の隣接農地委員会の区域とみなした上で、後の農地委員会において、地主につき在村、不在村を判定できるように、都道府県農地委員会の承認と、前者の市町村(地区)農地委員会の同意の下に、行われる制度であつて、個々の地主、個々の農地についての事情を考慮して、行われる制度ではないと解すべきである。

しかして控訴人の住所が枚方市大字招提にあつて同所は枚方市招提地区農業委員会の区域にあり、本件農地は枚方市牧野地区農業委員会の区域内にあり、本件農地のある右地域を招提地区農業委員会の区域に準ずる地域としてのいわゆる準地区の指定のなされなかつたことは当事者間に争がない。控訴人が本件農地のある地域を招提地区農業委員会の区域に準ずるいわゆる準地区の指定をすべきであるとする事由は、たとえその主張通りの事実があつても、唯そのようなことは隣接農業委員会の区域の境界線付近に於て往々生ずる事実であつて、前示準地区を制定した趣旨より見て唯この事実からのみでは招提地区農業委員会の区域と本件農地の所在地付近の地域とを併せて前記農業経営面よりみた単位地域とするのを相当とするものとは認められず他にこれを相当とする事情も認められないから、特に本件農地の所在地域を招提地区農業委員会の準地区として指定しなかつたことには何らの違法はない。

(4)  自作法第五条第四号による指定をすべきであるとの点について、

自作法第五条第四号により都道府県知事が買収除外地を指定すべきか否かは、自作法上の目的と都市計画上の要請との調和をどこに求めるかの行政上の判断に基く知事の自由裁量に委ねられているものと解されるから、知事のこの点に関する裁量行為が裁量権の範囲を逸脱しているか、それが社会的にみて著しく不当でない限り裁判所はその当否を判断しえないものであつて、本件土地につき大阪府知事が同法第五条第四項の除外指定をしていないことは当事者間に争のないところではあるが、大阪府知事がその買収除外指定をしなかつたことが裁量権の範囲を逸脱したとか、社会的に著しく不当と認めるに足る資料のない本件に於ては、知事の右指定なくして本件買収計画を定めたことには何らの違法はない。

(5)  同法五条五号による指定をすべきであるとの点について、

客観的に近く土地の使用目的を変更するのが相当である農地は、市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て、又都道府県農地委員会が自ら自作法第五条第五号による買収除外地の指定をしなければならないものであつて、この指定がなされずになされた右農地の買収計画は違法と言わねばならないが、本件土地につき右の指定のなされていないことは当事者間に争がない。しかし本件土地は右自作法第五条第五号の農地に当らない。

即ち、原審及び当審での検証の結果によると、本件土地は京阪電鉄株式会社牧野駅から国鉄片町線長尾駅に東西に通ずる府道に北接し北方に順次連なる一画の土地であつて、その東方は約百米位の処に府道沿いに数戸の人家があり更にその東北方に可なりの距離を距てて人家が密集しているがその他は一面の農地であり、本件土地の北方には隣接して人家一戸と更にその北方に数戸の人家があるのみで、本件土地と府道との境を中心として約三、四百米の半径を以つてえがいた府道以北の半円内には前記東方の人家と後記西方の人家を除いては殆んど人家はなく農地ばかりであり、西方約百米位に関西医科大学竝に病院があつて、それより以西は人家が密集しているが右病院と本件土地との間には府道の北側に二戸の人家と府道の南に人家一戸があるだけで中一戸の人家は比較的新しく、本件土地の南方は東南約三十米位の処に枚方消防署牧野出張所の建物があり、南西に当つて昭和三十二年三月九日当時府営鉄筋コンクリート建集団住宅の建設工事中である外はるか遠方迄人家はなく農地が続いていることが認められ、右府営集団住宅建設工事を除いては右認定の状態は本件買収計画樹立当時と殆ど差異のないことが認められる。このような付近の状況からすると本件土地付近は将来何時かは宅地化することがあるかも知れず、控訴人も将来本件土地を宅地として利用する意図で所有していたことは前認定の通りであり、昭和三十二年三月当時付近に府営集団住宅の建設工事が行われていたとは言え、本件土地は買収計画の定められた昭和二十五年当時は付近一帯にひろがる農地の中にあつて近い将来その使用目的を変更するのを相当とする特段の状況になかつたものとみなければならない。

(6)  買収対価の不当を理由とする点について、

自作法が買収計画の不当に対する救済方法として第十四条を設け対価の増額請求の訴を規定しているところから考えて、同法は対価の不当は買収計画その他買収手続に於けるその他の処分の効力に影響を及ぼさないものとする趣旨が明かであるから、たとえ買収計画に定められた買収対価の額が不当であつても買収計画そのものを違法とすることはない。

それ故控訴人が本件買収計画を違法とする実体上の事由はいずれも理由がない。

(二)  そこで控訴人の主張する買収手続上の個々の行為についての瑕疵について判断する。

(1)  買収計画について、

(イ) 市町村農地委員会のなす買収計画なる行政処分は、買収すべき農地とその買収時期と買収対価とを定める該委員会の議決と右議決のあつたことを表示する公告と、右議決の内容を記載した書類(買収計画書)を作成して従覧に供することによつて外部に対して効力を生ずるものである。しかして右計画書には委員会でした議決全部を記載するのではなく自作法第六条第五項は右計画書に記載すべき事項を掲げているが、その他の議決した事項の記載を命じたり、右計画書の形式を定めた規定はない。従つて右計画書には控訴人の主張する特定具体的な議決に基いた旨の記載や、各委員の署を要しない。

(ロ) また前記公告は委員会に於て買収計画を定める議決のあつたことを表示する行為であつて、右議決があればその事後処理として法律上当然しなければならぬものであるから、特にこれをなすべき旨の委員会の議決は必要でないし、公告をすることは委員会の代表者である会長がその権限においてなすべき事項と解すべきであり、且その公告の内容は単に買収計画を定めた旨の記載があれば十分であつて、買収すべき農地、買収時期、対価等の記載を要するものではない。

成立に争のない乙第一ないし三号証によると、被控訴委員会は本件土地につき自作法に定める買収計画事項を決定して買収計画を樹立する議決をし、同法第六条第五項所定の事項を記載した買収計画書を作成し、且昭和二十五年四月三十日付被控訴委員会々長沢村郁三名義を以つて公告と題し被控訴委員会が第十六回農地買収計画を樹立したから右計画書を昭和二十五年五月一日から十日迄の間被控訴委員会事務所に於て縦覧に供する旨の文書を作成して、被控訴委員会事務所の掲示場に掲示したことが認められるから、本件買収計画は適法に定められ公告されたものであつて、その手続には何等の瑕疵はない。もつとも前記乙第一号証の議事録には買収計画の具体的内容についての議決のあつた旨の記載がないが、元来農地委員会の議事録についてはその記載事項を定めた規定はなく、右の記載がなくとも前記乙第二、三号証と併せてみれば、その議決の内容が自ら明かであるから、控訴人の主張するように本件買収計画書の記載内容と一致した議決がなされたか明かでないと言うことはできない。

(2)  異議却下決定竝に訴願手続の瑕疵について、

市町村農地委員会が買収計画に対する異議申立について決定したとき、及び都道府県農地委員会が訴願について裁決したときは、いずれも決定書及び裁決書を作成し、各その謄本を申立人及び訴願人に送付しなければならないのであるが、右決定書及び裁決書の作成法式については訴願法に裁決には理由を付する旨規定するの他特に法令に規定したものはないから、決定書、裁決書には委員会に於て議決した決定及び裁決の主文と理由とが当該委員会の議決したものとして記載されておれば足り、その作成及び謄本の作成送付は委員会の代表者である会長(又はその代理者)がその権限に基いてなしうるものと解すべきであつて、たとえ会長が当該議決に加わらなかつた場合でも会長はその職責上なされた議決の内容に従つた決定書、裁決書を作成しうるものであつて、且委員会名義であると、会長名義であると問うところでないと解すべきである。以上と異る控訴人の見解は独自の見解であつて採用の限りでない。

成立に争のない乙第五、六号証によると、被控訴委員会は控訴人の異議申立に対し昭和二十五年五月十日午後九時開催の会議に於て右申立を却下する議決をし、委員会名義を以つて右却下する旨とその理由とを記載した決定書を作成したことが認められ、右決定が控訴人に送達されたことは前に認定した通りである。控訴人は右異議申立書は昭和二十五年五月十日午後四時に提出したからその日の中には委員会は開催されず従つて議決は行われなかつたと主張するが、たとえ右申立書が控訴人主張の日時に提出されたことが事実であつたとしても、前示のように委員会は同日午後九時開催されたのであるから、右会議の開催竝に審査に違法のかどがあつたと認むべき何らの証拠はない。

更に大阪府農地委員会が控訴人の異議却下決定に対する訴願につき昭和二十五年六月二十九日棄却する裁決をしたことは控訴人の自認するところであり、成立に争のない乙第八号証によると、同委員会は会長代理今本治一名義を以つて裁決の主文と理由とを記載した裁決書を作成したことが認められ、右裁決書が控訴人に送達されたことは前に認定した通りである。控訴人は右裁決書に記載された理由については同委員会は審議していないと主張するが、右裁決書が権限者により作成されている以上、特に反対の事実の認められない本件に於ては、そこに理由として記載されていることは議決に際して理由としたところを記載したものと認むべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。

従つて異議却下決定竝に訴願手続については何らの瑕疵はない。

(3)  本件買収計画に対し適法な承認がないとの点について、

自作法第八条に規定する市町村(地区)農地委員会の定めた買収計画に対する都道府県農地委員会の承認と言うのは行政庁相互間の対内的行為であつて直接外部国民の権利義務に変動を及ぼす行為でないことは前に説明した通りであつて、且右承認は都道府県知事をして買収計画に従つて買収処分をすることを可能ならしめる対内的効果を生ずるに過ぎないものであり、法令上市町村(地区)農地委員会からの承認を求める申請に基くこと、及び承認は文書によつて行わねばならないものでもない。しかし自作法第八条によると右承認はすでに買収計画が定められ、若しこれに対する異議申立或は訴願のあるときはこれに対する決定又は裁決のあつた後でしなければならないのであるが、しかも右決定又は裁決のあつた後と言うのは、前記承認の性質から考えてその各謄本が申立人或は訴願人に送付された後を言うのではなく、決定又は裁決の議決のあつた後であれば足ると解すべきであつて、且承認はその旨の議決を以つて直ちに効力を生ずるものであつて、その意思表示が市町村(地区)農地委員会に到達して初めて効力を生ずるものではないと解すべきである。従つて以上と異る控訴人の見解は採用できない。

本件土地に対する買収計画がなされ、これに対する控訴人の異議申立が却下され、更にこれに対する控訴人よりする訴願につき、大阪府農地委員会が昭和二十五年六月二十九日棄却の訴願裁決の議決をしたことは前示認定の通りであつて、成立に争のない乙第十号証によると大阪府農地委員会は同日本件買収計画を承認する議決をしたことが認められる。ところで右訴願棄却の裁決の議決と承認の議決とは同日になされており、右二つの議決の先後を明かにする証拠はないが、特に反対の事実の認められない限り大阪府農地委員会のこれらに対する事務処理は法令に従つた通常の事務処理の順序によつてしたものとみるのが相当であるから、大阪府農地委員会は右訴願棄却の裁決をした後右承認の議決をしたものと推定できる。してみると同委員会の本件買収計画に対する承認は適法になされたものと言わねばならない。

(4)  政府の買収及び買収令書の発行が無効であるとの点について、

自作法により国が農地の買収をするには、前記買収計画に対する都道府県農地委員会の承認のあつた後都道府県知事が右計画に基いて買収令書を作成しこれを被買収農地の所有者に交付するか又は交付に代る公告をすることによつてする買収処分によつてなされるものであるから、買収処分が有効になされるためには買収令書の作成並に交付又はこれに代る公告行為が適法であることを要することは勿論であつて、右買収令書には自作法第九条第二項所定事項を記載しなければならないのである。

ところで大阪府農地委員会が被控訴委員会の定めた買収計画を承認した後大阪府知事が買収令書を控訴人に交付したことは前に認定した通りであつて、右大阪府農地委員会の承認が適法であることも前記の通りである。そして右買収令書が自作法第九条第二項の記載要件を満していること、買収計画と買収令書の記載とに不一致の認められないことは、成立に争のない甲第三号証の一ないし三、同乙第二号証によつて明かである。

唯右買収令書が同書に記載された買収期日の後に作成交付されたことは、被控訴人等の認めるところであるが、買収処分が買収計画に定めた買収期日に後れてなされても、その効果を処分前の右買収の時期迄遡つて発生させることは可能であり、特にこれを禁じた規定はなく、これによつて右処分を受ける者の権利を不当に侵害しない限り違法でない。一般に買収計画は公告されこれによつて買収の行われることが予告されているものであるから、買収処分が買収の時期に後れてなされても、特にこれがため不利益を被る事情のない限り一般に処分を受ける者の権利を不当に侵害することはない。しかして控訴人が本件買収処分が後れてなされたことによつて不利益を被つたことが認められないから、本件買収処分を以つて違法と言うことはできない。従つてこの点に関する控訴人の主張はいずれも理由がない。

五、果して以上の通りとすると、本件土地の買収には実体上も手続上にも何らの違法はないから、被控訴委員会に対して買収計画を取消すべき理由もなく、又異議却下決定を無効とすべき理由もない、又被控訴人国に対して本件土地の買収処分を無効とする理由もない。従つて控訴人の右各請求は理由がないから棄却すべきである。

よつて原判決が控訴人の本訴請求を排斥したのは結局以上の説明と同趣旨であるから、(原判決が被控訴人国に対する訴願裁決の無効確認を求める控訴人の請求を棄却しているのはこれを不適法として却下する趣旨であることは理由の全文からみて明かである。)これを相当とし、本件控訴は理由がないから棄却すべきである。よつて控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 大野美稲 石井末一 喜多勝)

原審判決の主文および事実

主文

一、原告の訴のうち、被告枚方市牧野地区農業委員会に対し政府の買収の取消をもとめる部分、政府の買収、買収計画公告、承認、買収令書の発行がそれぞれ無効であることの確認をもとめる部分、被告国に対し、政府の買収、買収計画、公告裁決、異議を却下した決定、承認がそれぞれ無効であることの確認をもとめる部分はいずれも却下する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告枚方市牧野地区農業委員会との間において、枚方市牧野地区農地委員会が別紙物件表記載の土地について定めた買収計画および右買収計画に基く政府の買収を取消す。各被告との間において、右の政府の買収が無効であることおよび右の買収計画、これに関する公告、異議却下決定、裁決、承認、買収令書の発行が無効であることを確認する。訴訟費用は各被告の負担とする」との判決をもとめ、その請求の原因としてつぎの通り述べた。

「枚方市牧野地区農地委員会(被告委員会)は昭和二五年四月二五日原告所有の別紙物件表記載の土地(本件土地)について自作農創設特別措置法(自作法)に基き同法第三条第一項第一号のいわゆる不在地主の所有する小作地たる農地として買収計画を定めその旨公告するとともに買収計画書を縦覧に供した。原告はこれに対し同年五月一〇日異議の申立をしたが、同日付でその異議を却下する旨の決定書の送付を受けて、さらに同年六月二二日大阪府農地委員会に訴願をしたが、同委員会は同月二九日訴願を棄却する裁決をし、その裁決書は同年七月二五日原告に送達された。大阪府農地委員会は右買収計画を承認し、大阪府知事はその後右買収計画に基いて原告に買収令書を交付した。

一、しかし右買収計画は、まず、つぎの点で違法である。

(一) 本件土地は医科大学附属病院の東に隣接する土地であり宅地の形態を備えている。もともと原告は本件土地を住宅建設の目的で宅地としての価額で高価に買受けて所有権を取得し建築に着手しようとしたが、たまたま戦争のため資材の入手困難となつたので訴外大路五郎に五〇三番地五〇四番地の両土地を訴外小浜米蔵に五〇二番地の土地を休閑地としてそれぞれ一時使用貸借した。そうであるから本件買収計画当時本件土地には野菜等農作物が栽培されていたけれども実質上宅地とみるべきものであつて農地ではない。

(二) 右のように原告は訴外人等に対し本件土地を一時使用貸借したにとどまり何等賃貸借その他小作関係は存在しないから本件土地は小作地ではない。しかもこの使用貸借契約は何れも同二五年五月一〇日当事者合意の上解除されて消滅したからこの点からしても買収の対象たる小作地としての適格を欠いている。

(三) 原告が住所を有する枚方市招提地区農地委員会の地区と本件土地の存する枚方市牧野地区農地委員会の地区とは隣接し両地区とも元殿山町に属していたのが枚方市制実施とともに枚方市に包含せられたものであるが、元来両地区は切り離すことのできない関係にあり招提地区の住民で牧野地区にある農地を耕作し反対に牧野地区の住民で招提地区にある農地を耕作する者多くまた両地の住民はその境界に存する殿二小学校に児童を通学させている状況にあつて、事実上同一地区とみられるべきものであるし、ことに本件土地はその東方約一町の地点において招提地区と畦一筋で接しているのである。従つて本件土地のある地域は原告の住所の存する枚方市招提地区農地委員会の設けられている地区に準ずるものとして自作法第三条第一項第一号に基きその指定をなすべきものである。そうであるのにその手続をしないで原告を不在地主としてたてた買収計画は違法である。

(四) 本件土地は自作法第五条第四号に基きその指定をすべきものである。

(五) 本件土地は自作法第五条第五号に基きその指定をすべきものである。

(六) 本件土地の時価は優に一坪二百円を超えこれを自作法第六条第三項但書に規定する特別の事情がある場合に当るのにかかわらず、買収計画において同項本文の規定する通常一般の額を以て対価を定めているのはとうてい相当な対価を定めたものということができない。

二、つぎに、右買収計画、その公告、異議却下決定、裁決、承認政府の買収および買収令書の発行には、次の点の違法がある。

(一) 買収計画

(1) 本件買収計画は被告委員会作成名義の買収計画書なる文書をもつて表示されている。しかし、被告委員会に備付けてある議事録によれば、右の買収計画書の内容と一致する決議のあつたことが明認し難く、また、右買収計画書には決議を要する買収計画事項の全部が完全には表明されていない。すなわち、右買収計画書は被告委員会の決議に基きかつ法定の内容を具備する適式の買収計画と認めるに足りない。

(2) 買収計画書は委員会という合議体の行政行為的意思を表示する文書であるから、買収計画書自体に、委員会の特定具体的決議に基いた旨の記載と、その決議に関与した各委員の署名あることを、その有効条件とするが、本件買収計画書には右の記載および署名がない。

(二) 公告 市町村農地委員会はその決議をもつて買収計画の公告という行政処分をしなければならない。その公告は、買収計画という委員会の単独行為を相手方に告知する意思伝達の法律行為である。公告によつて買収計画は対外的効力を生じ、適法な公告があつてはじめて政府と買収利害関係人との間に買収手続という公法上の法律関係が成立するものである。

(1) ところで、本件買収計画の公告は、被告委員会の決議に基いていない。

(2) また、被告委員会の公告ではなくて、その会長の単独行為であり、その専断に出たものである。

(3) 公告の内容は買収計画の告知公表たるを要するにかかわらず、現実になされた公告には単にその縦覧期間を表示するにとどまる。かかる内容の公告は自作法第六条に定める公告としての要件を欠くものである。

(三) 異議却下決定

(1) 原告は昭和二五年五月一〇日被告委員会に異議を申立てそれに対して同委員会は同日付で異議を却下する旨の決定書を送付してきたが、原告が右異議の申立をしたのは同日午後四時であり当日時間的にも委員会を開催することは不可能であり事実開催されなかつたのにかかわらず、被告委員会はあたかも同日委員会が開催実施せられこれと一致する決議がされたもののように仮装して後日右決定書並びにこれに関する議事録を作成した。すなわち被告委員会は原告の異議申立に対し何等審議し議決していないのである。

(2) その決定書は会長単独の行為または決定の通知とはみとめられるが、被告委員会の決定書とみとむべき外形を備えていない。

(四) 裁決

(1) 大阪府農地委員会が原告の訴願について裁決の決議をした事実はみとめるが、その議決は裁決の主文についてのみ行われ、その主文を維持する理由に関しては審議を欠く。裁決書中理由の部分は会長たる知事の作文であつて、右委員会の意思決定を証明する文書ではない。

(2) 裁決書は会長たる知事の名義で作成されているが、会長が右委員会の訴願の審査および裁決の決議に関与しなかつたことは公知の事実である。故に右の裁決書は同委員会の裁決に関する意思を表示する文書ではない。

(3) 裁決書を会長名義で作成することは法令上許されない。

(五) 承認 買収計画につき、市町村農地委員会は自作法第八条に従つて、都道府県農地委員会にその承認を申請し、都道府県農地委員会は、その買収計画に関する法律上事実上の事務処理について違法または不当の点がないか厳密に審査し、その承認を行うものである。すなわち買収計画の承認は、承認の申請に基き買収計画に関し検認許容を行う行政上の認許で明らかに行政上の法律行為的意思表示であり、行政処分たる法律上の性格を有することは疑の余地がない。

買収計画はその公告によつて対外的効力を生じ、その存在を外部に対抗し得るにいたるが、さらにこれに対する違法有効な承認があつてはじめて、その効力が完成し、ここに確定力を生じ、政府の内外に対し執行力が生ずるものである。反言すれば、買収計画という行政処分は、適法な承認のあつた時に法律上の効力の完成をみるもので、このときに買収計画は確定的客観的に存在をみるものである。

ところで(1)本件買収計画に対しては適法な承認がない。大阪府農地委員会は、今次の農地改革における各買収計画に対し法定の承認決議をした外形があるが、あるいは市町村農地委員会の適法な申請に基かないものがあり、あるいは承認の決議が訴願に対する裁決の効力発生前になされたものがあつて概して承認の決議自体無効である。このことは本件買収計画に対する承認についても同様である。

(2) 本件の買収計画に対して承認の決議はあつたが、この決議に一致する大阪府農地委員会の承認書が同委員会によつて作成されていない。また被告委員会に送達告知されていないすなわち買収計画に対する適法な承認の現出告知を欠く。故に承認なる行政処分は存在しない。かりに右の決議をもつて承認があつたものとするも、かかる決議は法定の承認たる効力がない。

(六) 政府の買収および買収令書発行 自作法による政府の買収という行政処分は、府県知事の買収令書の発行という、国の行政機関の文書をもつてする意思表示により具現し、その交付すなわち告知によりその対外的効力を生ずる。すなわち、政府の買収なる処分の効力は、買収令書の発行の適法なるや否やにかかる。

ところで(1)自作法第九条によれば、買収令書の発行は、同法第八条の承認のあつたことを前提とする。故に適法な承認行為が実在し、しかも承認が効力を生じた上でなければ買収令書の発行は違法であつて無効である。

(2) 政府は買収計画の定めるところにより買収を実行する。買収計画の定める買収計画と一致しない買収令書の発行は無効である。

(3) 買収令書が買収計画に定めた買収の時期に遅れて発行された場合は買収計画の執行に当らないから買収令書の発行は無効である。

本件土地についての買収令書の発行には右の各無効原因があつて無効でありひいて政府の買収もまた無効である。

従つて本件土地についての政府の買収は無効であり、また買収計画、その公告、異議却下の決定、訴願棄却の裁決、買収計画の承認、買収令書の発行はすべて無効である。」

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決をもとめ、答弁としてつぎの通り述べた。

「一、被告委員会は昭和二五年四月二五日原告所有の本件土地を自作法第三条第一項第一号にかかげる不在地主所有の小作地たる農地として同法による農地買収計画を定め、その旨公告するとともに十日間買収計画書を縦覧に供した。原告はこれについて同年五月一〇日異議の申立をしたので、被告委員会は即日異議申立を却下する決定をしてその決定書の謄本を送達し原告はさらに同年六月二二日訴願をしたが、同月二九日大阪府農地委員会はその訴願を棄却する旨の裁決をしその裁決書の謄本は同年七月二五日原告に送達した。そして大阪府農地委員会は同年六月二九日右買収計画を承認し、大阪府知事は右買収計画に基いて原告に買収令書を交付した。ただ右の買収令書はそれに定めた買収の時期である昭和二五年七月二日より遅れて交付された。

二、本件土地の現状は買収計画当時から立派な農地であつて宅地の形態など備えておらず小作地であつた。買収の対価の点は、買収計画に定めた対価が不当であつてもそれは買収計画の効力に何等関係はない。のみならず本件土地については自作法第六条第三項本文に定める最高額を対価として定めているのであり不当な点はない。なお本件土地については自作法第三条第一項第一号にいわゆる準地区の指定および同法第五条第四号第五号に定める各指定はすべてなかつたが、その点何等の違法はない。

三、原告のその他の主張について

(一) 買収計画 自作法第六条によつて、買収計画においては(1)買収すべき農地、(2)買収の時期、(3)買収の対価の三つの事項を定めることが規定されている、そして、買収すべき農地については、買収要件を規定した同法第三条の関係などから、所有者の氏名および住所、農地の所在、地番、地目および面積を明確にしなければならない。

被告委員会は、本件土地の買収計画において、(1)買収すべき各個の農地につき現況と買収要件を調査し、その結果を公簿面の記載と対照した上、すべて公簿面の記載に基いて、地目、地番、面積等を定め、(2)買収の時期を昭和二五年七月二日と定め、(3)対価について、各個の農地につき、自作法第六条第三項本文の規定に従い、その最高の額を対価として定めた。この買収計画は、被告委員会の議決によつて定められたものでその内容は買収計画等という文書によつて具体的に明確になつており、議事の経過は議事録によつて明らかになつている。

また、買収計画書には被告委員会名を記載しており、これにより何人も被告委員会の定めた買収計画であることを認識し得る。委員会の決議に基いた旨の記載とか、その決議に関与した各委員の署名などは、必要ではない。

(二) 公告 公告は買収計画に対外的効力を生ぜしめる行為で行政処分ではない。従つて行政訴訟の目的とはならない。被告委員会は、自作法第六条第五項により、買収計画を定めた旨を公告し、同条所定の書類(買収計画書)を縦覧に供したのであつて、公告の文書は委員会代表者会長名義でした。原告が、本件買収計画の公告を無効と主張する理由は何等法令の根拠がない。

(三) 異議却下決定 被告委員会は、原告の異議申立について委員会を開き審議の結果、異議はその理由がないので却下の決定をした。この決定は委員会の議事録によつて明らかになつている。決定書は委員会代表者会長名義で作成しているが、これは農地調整法施行令第十六条第一項によつたものである。

(四) 裁決 大阪府農地委員会は、原告の訴願について裁決するに当り、その訴願の理由のすべてについて審議しており従つてまた訴願を棄却した理由はすべて審議している。この裁決は委員会の議事録によつて明らかになつている。裁決書は、委員会の議決に基いて同委員会代表者会長名義で作成した。農地調整法第一五条の一〇、同法施行令第三一条第一六条によつたものである。主文を維持する理由に関しては審議をしていないという原告の主張は誤解によるものであり、そのほか右裁決を非難して原告の主張するところは全く法令に根拠がない。

(五) 承認 府農地委員会が自作法第八条によつて行う買収計画の承認は、買収農地の所有者に対してする行政処分ではなく、買収計画を定めた市町村農地委員会に対してする行政庁相互間の内部的行為で、対外的関係における処分行為に属しない。すなわち、買収計画の承認は、行政処分ではないから、それ自体は行政訴訟の目的とはならない。

大阪府農地委員会は、本件の買収計画について、自作法第八条により、被告委員会に対し、適法有効に承認をし承認書という書面を委員会代表者会長名義で作成して承認の相手方である被告委員会に交付している。

右の承認は、自作法第八条にいう裁決をした後に行つている。同条にいう裁決は裁決たる議決の趣旨であり、裁決なる行政処分が訴願人に対して効力を生ずるのは裁決書の謄本を訴願人に送付した時であるが、裁決の相手方(訴願人)と承認の相手方(市町村農地委員会)とはまつたく異るので、承認の前提としては、裁決たる議決のあつたことをもつて足り、その議決さえあれば、裁決書の謄本を訴願人に送付する手続のいかんにかかわらず、承認を行うことができるというのが、右第八条の規定の趣旨である。

原告は、承認が裁決の効力発生前になされているから無効であるというが、自作法第八条に規定する承認と裁決との関係について解釈を誤つているものである。

(六) 承認書、買収令書の送付時期、承認書が被告委員会に到着し、また買収令書が原告に送達された日が買収計画に定めた買収の時期の後になつても、このことはその効力に影響を及ぼすものではない。」

(証拠省略)

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